巨船べラス・レトラス2007/04/20

筒井康隆さんの問題作である。何が問題かと言えば、現代日本の文学の問題、いや文壇というものの問題なのか。

メタ世界に存在する巨船べラス・レトラスに乗り込むのは、多くは文学者であり、現実世界でのべラス・レトラスは先進性と実験性こそを強く奉じる雑誌である。しかし、現実には先進性や実験性が強ければ強いほど、商業誌としての命脈は尽きようとしてしまう。しかも、作品を掲載している作家自身が、過剰な実験性や先進性を求められるが故に疲弊し、作品が空転してしまう。それが商業誌としての売り上げを更に押し下げてしまう。

雑誌「べラス・レトラス」を主催するのは文学好きのIT企業家ということになっている。多分、記されている見かけの姿は違うが、筒井さんが断筆中に「断筆祭り」という催しがあったわけだが、そのスポンサーとなったあの人がモデルだろうと思う。筒井さんに会社の出版部門を譲ろうともしたと聞く。根っからのツツイストである。

この作品に記載されている、やや露悪的とも思える部分も、実は日本文壇に対する真摯なオマージュと読めるのである。

愛情がなければ悪罵も起きぬ。ただ無視するだけである。

ちなみに、吾妻ひでおの「うつうつひでお日記」にも、この作品が登場する。雑誌文学界に連載されていた当時から読んでいたとも記されている。