ブルース・ライブ!~コンプリート版/ロバート・Jr.ロックウッド&ジ・エイシズ2008/03/22

1974年11月の末、東京芝の郵便貯金ホールでは、いきなりアメリカ南部からシカゴにかけての黒人のブルースの息吹が渦巻いていた。ニューミュージックマガジン(現ミュージックマガジン)社が主催する「第一回ブルースフェスティバル」が行われたのである。

登場したのはロバート・ジュニア・ロックウッドとジ・エイシズ。さらにはスリーピー・ジョン・エスティスとハーミー・ニクソンの義理の親子のコンビだ。

スリーピー・ジョン・エスティスはその後憂歌団とのジョイント・コンサートなどにも来日していて、死の直前の幾年かは餓死寸前の極貧時代とは違って、世界を歌うために飛び回るほど忙しかったが、経済的にはようやく「食える」状態になったし、日本にも幾ばくかのファンを作った。

ロバート・ロックウッドは2006年11月21日に91歳で亡くなったのだが、その実力と深い味わいを見事に日本で披露したのは1974年のこのライブでだろう。

このコンプリート版と銘打たれたアルバムは、Disk Aがライブの翌年に発売されたLPを元にしている。当時、シカゴのデルマーク・レーベルやアーフーリー・レーベルの音を積極的にアルバム化して、当時のブルースブームの一翼を担ったトリオレコードから発売されたものだ。このアルバムは米国でもデルマーク・レーベルから発売されていた。

発売していたトリオ(現在のケンウッド)が音楽事業から手を引いて、その権利はViVidサウンドに移った。これは独立系のレーベルで、ブルース・インターアクションが作ったレーベルであるP-VINEと、黒人音楽を独自レーベルで国内発売していた草分けであるが、CD化した際に幾つかの楽曲を付け加えた。さらに、Blues Live! IIとしてジャケットの色を青くし、残った音源の中で一応使えるものを使ったアルバムも発売していた。

このコンプリート版はその「赤」ジャケットと「青」ジャケットのDisk AとDisk Bの二枚のCDに、録音状態が芳しくは無いが(随分控えめな表現だが)追加の楽曲をボーナストラックとしてDisk Cに収めた「コンプリート版」である。ボーナストラックにはスリーピー・ジョン・エスティスとハーミー・ニクソンの演奏も2曲収録されているが、この音源はトリオ・レコードが最初にこのアルバムをLPとして発売した当時、オマケのシングルレコードとして付けていた音源である。

コンプリート版とは言っても、ライブを全て網羅しているわけではない。この1974年のライブは4日間にわたり行われ、録音されたのは3日目と4日目の模様だ。私が見たのは初日のライブで、このときはロックウッドの代表曲である「Take A Little Walk With Me」も演奏していた。このアルバムにその曲が含まれていないのは、3日目と4日目には同曲を演奏しなかったためだろうと思う。

ボーナストラックの音の悪さについて言えば、「Work Song」はテープが伸びているのがハッキリわかるほどワウっていて、全体的に音は悪いが片側のチャンネルが特にヒドイ。「Caldonia」と「What'd I Say」はまだ聞くことが出来るが、それでもお世辞にも音質が良いとは言えない。完全に復元するにはデジタルリマスターに膨大な時間と費用がかかりそうである。単にマスターテープの音質劣化をそのままCDに焼き付けたわけではないだろうが、音は確実に悪い。演奏内容がDisk Bの内容よりも良さそうなので残念なところだ。

それでも4千円せずにこれらの楽曲た楽しめるのである。歴史の記録としても復刻された事が嬉しいアルバムであり、Disk Aは私のベスト・フェイバリットである。LP時代には聞きすぎて音がチリチリ言う状態になったほどだ。新しい世代のブルースファンにも、特にDisk Aだけを聞くためにもお勧めである。なにしろここ数年廃盤になっていたようで、Amazonあたりでも馬鹿高い価格設定がなされていたのだから。

Disk A

  1. Sweet Home Chicago
  2. Going Down Slow
  3. Worried Life Blues
  4. Anna Lee
  5. One Room Country Shack
  6. Stormy Monday
  7. Feel All Right Again
  8. Honky Tonk (Instrumental)
  9. Mean Black Spider
  10. Little And Low
  11. You Upset Me Baby
  12. Sweet Little Angel
  13. Just Like A Woman
  14. Juke

Disk B

  1. Everyday I Have The Blues
  2. Early In The Morning
  3. Guitar Inst.
  4. Route 66
  5. Strange Things Happening
  6. Money Marbles And Chalk
  7. Hide Away
  8. Reconsider Baby
  9. Harp Inst.
  10. New Orleans
  11. Hoochie Koochie Man
  12. Steal Away
  13. Got My Mojo Working

Disk C

  1. Work Song
  2. Caldonia
  3. What'd I Say
  4. Corina Corina (Sleepy John Estes & Hammie Nixon)
  5. When The Saints Go Marchin' In (Sleepy John Estes & Hammie Nixon)

ダンシング・ヴァニティ/筒井康隆2008/03/25

困ったのだ。一読するのは容易だったが、再読するのがなかなか難しく、時系列と変位を縦軸と横軸にとって見据え、内容を理解しなければならない。厄介な小説なのだ。

筒井さんが紡ぎだすこの小説は、確かに物語原型はあるのだが、その異化形態まで繰り返し記述され、その繰り返し部分を次の繰り返しのどこと結びつけるのかを考えなが読むと、読む我等は確実に追い詰められる。読者を追い詰めるのである。

ただ、この小説がテーマを次々に変奏してゆくジャズ的なもの、として捉えると、突然この小説の世界が心地よく、揺蕩う世界となる。テキストの悦楽だけを捕らえるのではなく、その変奏の悦楽をも我等の心の涵養となる。

「筒井康隆は終わった」などという向きもあるが、私の見方は違う。昔の自作の再生産などと言う向きもある。例えば「東海道戦争」と「歌と饒舌の戦記」の表層を捉えると、近似のものだとも言えるだろう。しかし、後者はある意味では「完成」を見たものなのだ。前者が「未完」であるが故に評価されるのであれば、後者が「完成」しているが故に貶められるのは、読者である我等の身勝手であろう。「未完」には正対することはできるが「完成」に正対するにはまだまだケツが青いのである。