口語訳古事記2005/05/20

口語訳古事記というものが文藝春秋社から発刊されたのは2002年の事だ。文藝春秋社の創立八十周年を記念してのものとの事である。

神話世界というのは、物語原形の宝庫であり、語り部による脚色が時代を経て行われた集積でもある。ただ、日本の神話を描いたもう一冊である日本書紀とは、その内容に違いがある。そこに、文字として残されたであろう時期の、政治体制や社会情勢を色濃く反映しているのだ、と読み解くのは深読みのしすぎか。 古事記も日本書紀も欽定神話という色彩が強いのだが、天津神が外来の騎馬民族、国津神がそれ以前に日本列島に住んでいた存在、というような単純な分別が正しいのかどうかは分からない。

因幡の白兎などの逸話は、イソップ童話と同等の寓意が込められており、大国主命が支配する神、支配される側の兎、ワニ鮫などの姿が、実は支配される庶民という構図があるように見える。嘘をつく兎を罰する神、嘘を反省した兎を許す大国主命というこのテーマは、より人間に近い、つまり庶民側に立った国津神である大国主命の姿に救済を求める庶民の願いも含まれているのではないのか。

歴史は勝者が書き換えるのが常であるが、稀にこうした敗者のささやかな抵抗のような逸話も、寓意を含むことで残されるのではないか。こうした寓話の中に、実は庶民生活が垣間見える気がするのだが。